平成22年度日本材料学会木質材料部門委員会業績賞
授賞理由


授賞対象者 :龍谷大学 理工学部 物質化学科  石井 大輔 氏

授賞研究課題:セルロースおよび各種多糖類の水系及び非水系媒体中での溶解とゲル化に関する研究

石井氏は、セルロースを工業原料として利用するために、塩化リチウム・アミド系溶媒に溶解させる前処理に注目し、溶媒置換処理によるセルロース系多糖類の物理化学的な変化を検討した。その結果、水・アセトン・アミド溶媒に順次浸す溶媒置換処理によって、ナノメートルオーダーで固体構造や分子運動、細孔構造が変化することを明らかにした。木材セルロースやコットンセルロースでは溶媒置換処理によってミクロフィブリルの凝集状態が変化して細孔容積が増大し、同時にセルロースの分子運動が増大することで塩化リチウム・アミド系溶媒への溶解が促進された。マイクロビアルセルロースおよびホヤセルロースでは固体構造が溶媒置換によってほとんど変化せず、セルロースの結晶性や微細構造の影響が示された。
脱石油化学として、サステナブルな資源である天然セルロースに対する注目は今後も高まるであろう。化学原料としてのセルロースの利用にとって、溶解性の向上は重要な課題であり、石井氏の貢献は多大なものであり、その業績は高く評価できる。
 なお、授賞の対象となった業績は下記の通りである。


1) 石井大輔,巽 大輔,青野 初,玉井伸岳,松本孝芳,“ 由来の異なる天然セルロースの固体構造と塩化リチウム・アミド系溶媒への溶解性",材料,Vol.59, No.4, pp.273-278 (2010)
2) Daisuke Ishii, Akira Isogai, "The residual amide content of cellulose sequentially solvent- exchanged and then vacuum-dried", Cellulose, Vol.15, No.4, pp.547-553 (2008)
3) Daisuke Ishii, Daisuke Tatsumi, Takayoshi Matsumoto, "Effect of Solvent Exchange on the Supramolecular Structure, the Molecular Mobility and the Dissolution Behavior of cellulose in LiCl/DMAc", Carbohydrate Research, Vol.343, pp.919-928 (2008)
4) Daisuke Ishii, Yusuke Kanazawa, Daisuke Tatsumi, Takayoshi Matsumoto, "Effect of solvent exchange on the pore structure and dissolution behavior of cellulose”, Journal of Applied Polymer science, Vol.103, No.6, pp.3976-3984 (2007)
5) Daisuke Ishii, Daisuke Tatsumi, Takayoshi Matsumoto, Kazuki Murata, Hisao Hayashi, Hiroshi Yoshitani, "Investigation of the Structure of Cellulose in LiCl/DMAc Solution and Its Gelation Behavior by Small-Angle X-Ray Scattering Measurements", Macromolecular Bioscience, Vol.6, No.4, pp.293-300 (2006)
6) Daisuke Ishii, Daisuke Tatsumi, Takayoshi Matsumoto, "Effect of solvent exchange on the solid structure and dissolution behavior cellulose", Biomacromolecules, Vol.4, No.5, pp.1238-1243 (2003)

以上

平成22年10月22日
日本材料学会木質部門委員会
委員長 大越 誠