平成26年度日本材料学会木質材料部門委員会業績賞
授賞理由
授賞対象者 :京都大学大学院農学研究科 簗瀬 佳之 氏
授賞研究課題:木造建築物におけるシロアリ食害の非破壊検出法の開発
簗瀬氏は,シロアリ食害によって発生する微弱な超音波振動や水素・メタンガスの検出による木材内部のシロアリ食害の評価や,X線CT装置を用いて食害による空隙と残存強度の評価について多数の研究を実施し,日本材料学会をはじめ,日本木材学会,日本環境動物昆虫学会,日本建築学会などに多数の研究発表・報告を行っている.これらの成果により,平成19年には日本材料学会論文賞「種々の粒子材料のシロアリ物理バリアへの適用―粒子径,粒子形状および表面性状がシロアリの貫通行動に与える影響―」を受賞されている.簗瀬氏の業績は,木造建築物の維持管理において重要な取り組みであり,環境や人体への影響を配慮した次世代のシロアリ防除方法の確立にも寄与するものと考える.
以上の点を鑑み,平成26年度の日本材料学会木質材料部門委員会業績賞を授与することに決定した.
なお,授賞の対象となった業績は下記の通りである.
記
1) 簗瀬佳之,上谷幸治郎,藤井義久,奥村正悟:ゼオライト造粒材料の吸放湿性とシロアリ貫通阻止性能,材料,Vol.58,pp.304-309,2009
2) 森拓郎,香束章博,簗瀬佳之,小松幸平:シロアリ食害材の強度特性と密度および超音波伝搬速度の関係,材料,Vol.59,pp.297-302,2010
3) 簗瀬佳之,森拓郎,藤原裕子,南宗和(2012) 日本におけるアメリカカンザイシロアリの木造住宅被害の調査研究: 木造住宅の被害程度と被害木材の残存耐力評価,住宅総合研究財団研究論文集,Vol.38,pp.245-256,2012
4) Yanase Y, Fujii Y, Okumura S and Yoshimura T, Detection of metabolic gas emitted by termites using semiconductor gas sensors, Forest Prod J, Vol.62, pp.579-583, 2012
5) 森拓郎,田中圭,簗瀬佳之,河野孝太郎,野田康信,森満範,栗﨑宏,小松幸平:生物劣化を受けた木材の曲げ及び圧縮強度特性とその劣化評価,材料,Vol.62,pp.280-285,2013
6) Yanase Y, Miura M, Fujii Y, Okumura Sand Yoshimura T, Evaluation of the concentrations of hydrogen and methane emitted by termite using a semiconductor gas sensor, J Wood Sci, Vol.59, pp.243-248, 2013
7) Fujii Y, Fujiwara Y, Yanase Y, Mori T, Yoshimura T, Nakajima M, Tsusumi H, Mori M, and Kurisaki H, Development of Radar Apparatus for Scanning of Wooden-wall to Evaluate Inner Structure and Bio-degradation Non-destructively, Advanced Ai0Materials Research, Vol.778, pp.289-294, 2013
8) Yanase Y, MaruyamaS, Fujii Y, Okumura Sand Yoshimura T, Detection of hydrogen and methane emitted by feeding activity of termite under forced ventilation, Jpn J Environ Entomol Zool, Vol.24, pp.97-105, 2013
9) 森拓郎,田中圭,河野孝太郎,中畑拓巳,簗瀬佳之,栗﨑宏:腐朽したスギ材に打込まれた釘の一面せん断耐力の推定,材料,Vol.63,pp.314-319,2014
10) 簗瀬佳之,森拓郎,吉村剛,藤原裕子,藤井義久,鳥越俊行,今津節生:アメリカカンザイシロアリ食害材の空隙率と残存曲げ強度の関係,材料,Vol.63,pp.320-325,2014
以上
授賞対象者 :京都大学大学院農学研究科 田淵 敦士 氏
授賞研究課題:伝統木造建築における接合方法の強度性能評価に関する基礎的研究
田淵氏は,伝統的な木造建築に関する技術の中で,接合部を対象として強度特性を明らかにしようとするものである.特に強度特性の明らかになっているEngineered woodを用いて実験を行うという視点は今までの伝統的な接合部の研究において不足していた部分であり,意義深いものである.こうした研究を日本材料学会のみならず,日本建築学会や日本木材学会等においても多数の成果を発表しており,また国際学会においても研究発表をするなど,伝統的な木造建築の安全性を評価する上での貢献は大きい.これらの研究成果は,いまだ十分な評価方法あるいは設計式の確立には至っていないものの,同様の成果が多数蓄積されることで,伝統的な木造建築を工学的に設計できるようになると期待できる.田淵氏の業績は,より安心・安全で信頼性の高い伝統木造建築の構造設計において重要な取り組みであり,木質材料の発展に寄与するものである.
以上の点を鑑み,平成26年度の日本材料学会木質材料部門委員会業績賞を授与することに決定した.
なお,授賞の対象となった業績は下記の通りである.
記
1) 田淵 敦士,小松 幸平:小壁を有する門型架構の水平せん断性能,構造工学論文集,日本建築学会,50B,pp.321-326,2004
2) 田淵 敦士,北守 顕久,森 拓郎,小松 幸平:京町家における小壁の水平せん断性能,構造工学論文集,日本建築学会,51B, pp.497-502,2005
3) 片岡 靖夫,小川 晃司,小松 幸平,田淵 敦士:資源有効利用壁土の基礎研究,日本建築学会構造系論文集,No.591,pp.93-98,2005
4) 田淵 敦士,北守 顕久,森 拓郎,小松 幸平:京町家型土壁の水平せん断性能,日本建築学会構造系論文集,No.605,pp.143-150,2006
5) 西澤 英和,田淵 敦士,西川 英佑:伝統的木造文化財建造物の土壁痕跡調査に基づく地震被害の検討-重要文化財 寳塔寺本堂の土壁被害について,日本建築学会計画系論文集,No.647,pp.263-270,2010
6) 田淵 敦士,村田良浩,高奥信也,明石浩和:木製治山ダム部材における曲げ強度の経年変化,材料,日本材料学会,Vol.60,No.4,pp.277-281,2011
7) 田淵 敦士,明石 浩和:長ほぞ- 込栓接合におけるほぞ厚さと込栓打ち込み位置が引き抜き強度に及ぼす影響,材料,日本材料学会,Vol.61,No.4,pp.499-504,2012
8) 田淵 敦士,内田 保博,石倉 龍人:木質?鋼合成梁の終局曲げ耐力および変形性能,日本建築学会技術報告集,No.39,pp.499-504,2012
9) 田淵 敦士,塩田洋子:継手長さの違いが金輪継手の圧縮性能に及ぼす影響,材料,日本材料学会,Vol.63,No.4,pp.303-307,2014
以上
平成26年11月6日
日本材料学会木質部門委員会
委員長 藤井 義久