平成27年度日本材料学会木質材料部門委員会業績賞
授賞理由
授賞対象者 :京都大学生存圏研究所 田中 聡一 氏
授賞研究課題:木材の化学処理プロセス制御技術およびミリ波・テラヘルツ波による非破壊評価手法の開発
田中氏は,木材の化学処理プロセスにおける化学物質移動の制御技術およびミリ波・テラヘルツ波を用いた木材の新しい非破壊評価手法の開発において,実験と理論の両面から数多くの検討を行い,得られた研究成果を,日本材料学会,日本木材学会,農業食料工学会などの国内学会に加え,国際会議においても数多く発表している.
とりわけミリ波を用いた木材の非破壊評価手法の開発においては,ミリ波の空間分解能では木材の年輪構造由来の密度分布を測定することは困難とされてきたが,その密度分布とミリ波透過画像を関係付ける理論を構築した.これは,木材の非破壊評価において,被ばくの危険性があるX線技術の代わりに安全なミリ波技術を利用できる可能性を示した点で重要な成果であり,この業績についてJournal of Wood Scienceの2013年度論文賞を受賞している.
のように,田中氏の業績は,木材の化学処理および非破壊評価という異なる2つの分野において目覚しい成果を上げており,それぞれ,化学処理の効果を最大限発揮させることで木材の寸法安定性や機械的性質をより一層向上させられる可能性を示したこと,および非破壊評価において扱いに危険を伴うX線技術の代替として安全なミリ波・テラヘルツ波技術利用の可能性を示したことは,木材・木質材料の利用促進に大きく貢献するものである.
以上の点を鑑み,平成27年度の日本材料学会木質材料部門委員会業績賞を授与することに決定した.
なお,授賞の対象となった業績は下記の通りである.
記
1) S. Tanaka, Y. Fujiwara, Y. Fujii, S. Okumura, H. Togo, N. Kukutsu, T. Nagatsuma, “Effect of grain direction on transmittance of 100-GHz millimeter wave for hinoki (Chamaecyparis Obtusa),” Journal of Wood Science, Springer, Vol. 57, No. 3, pp189?194, 2011
2) S. Tanaka, Y. Fujiwara, Y. Fujii, S. Okumura, H. Togo, N. Kukutsu, S. Mochizuki, “Dielectric anisotropy of oven- and air-dried wood evaluated using a free space millimeter wave,” Journal of Wood Science, Springer, Vol.59, No.5, pp.367-374, 2013
3) S. Tanaka, Y. Fujiwara, Y. Fujii, S. Okumura, H. Togo, N. Kukutsu, S. Mochizuki, “Effect of annual rings on transmission of 100 GHz millimeter waves through wood,” Journal of Wood Science, Springer, Vol.59, No.5, pp.375-382, 2013
4) 田中聡一,藤原裕子,藤井義久,奥村正悟,都甲浩芳,「木材のミリ波透過像に及ぼす回折の影響」, 材料, Vol.63, No.4, pp.326-330, 2014
5) S. Tanaka, K. Shiraga, Y. Ogawa, Y. Fujii, S. Okumura, “Applicability of effective medium theory to wood density measurements using terahertz time-domain spectroscopy,” Journal of Wood Science, Springer, Vol.60, No.2, pp.111-116, 2014
6) 田中聡一, 「ミリ波・テラヘルツ波技術を用いた木材の非破壊評価の現状と展望」, 農業食料工学会誌, Vol. 76, No.3, pp.213-217, 2014
7) S. Tanaka, K. Shiraga, Y. Ogawa, Y. Fujii, S. Okumura, “Effect of pore conformation on dielectric anisotropy of oven-dry wood evaluated using terahertz time-domain spectroscopy and eigenvalue problems for two-dimensional photonic crystals,” Journal of Wood Science, Springer, Vol.60, No.3, pp.194-200, 2014
8) 田中聡一,三木恒久,関 雅子,重松一典,金山公三,「溶液含浸木材の養生過程における細胞壁への溶質拡散機構の検証:相対湿度がポリエチレングリコール水溶液含浸木材の膨潤・収縮挙動に及ぼす影響」, 材料, Vol. 64, No.5, pp.369-374, 2015
9) 関雅子, 田中聡一, 三木恒久, 重松一典, 金山公三, 「アクリル樹脂を含浸したバルク木材の押出し加工荷重に及ぼすダイス角度の影響」, 材料, Vol.64, No.5, pp.375-380, 2015
10) S. Tanaka, M. Seki, T. Miki, I. Shigematsu, K. Kanayama, “Solute diffusion into cell walls in solution-impregnated wood under conditioning process I: Effect of relative humidity on solute diffusivity,” Journal of Wood Science, Vol.61, No.6, pp.543-551, 2015
以上
平成27年10月15日
日本材料学会木質部門委員会
委員長 藤井 義久